15歳で史上三人目の中学生棋士となり、十七歳で初タイトルの竜王を獲得。二十三歳で名人、二十五歳で史上初、空前絶後の七冠制覇を成し遂げた羽生善治。
羽生善治が、普段どんなことを考え、将棋に向き合ってきたのか。
そして、著名人との対話から透けて見える、羽生善治の人柄。
ビジネスにも応用できるヒントを、たくさん見つけることができる本です。
■ いかに考えないか、いかに捨てるか
判断をある段階で断ち切って決定する「見切り」のほうが、むしろ大事なのです。
素人考えでは、対局中、どれだけ多くのパターンを想定し、次のベストな一手を考えるのかと思っていたが、どうも羽生レベルになると違うらしい。
「何を考えないか」、「いかに手を読まないか」が、大切になってくるそうだ。
それは、勝つための最短ルートを探り、余分なことには一切エネルギーを使わないということではないだろうか。
そこで大切になるのが、本書で繰り返し出てくるキーワード、「大局観」と「直感力」である。
「大局観」とは、ある局面を見て、「攻めるべきか」「守るべきか」「長い勝負か、短い決着か」を論理ではなく、パッと判断できる能力のことです。
考える焦点が合っていなければ、いくら考えても、筋の良い手は思い浮びません。最初にどこにピントを合わせるかが、すごく大事な作業です。そのピントを合わせる作業に直感を使うのが一番なのです。
コンピュータは、演算速度を速くして、いかに短時間にたくさんの手を「読む」かを追求してきました。
人間にはできて、コンピュータにはできないこと、それは「いかに手を読まないか」ということなのかもしれません。
羽生は、膨大な「読む」実践を積み重ねてきたからこそ、この境地に至ったのでしょう。
■ 羽生マジック
ただ、そういう共通のものがあまり出来てしまわない方が発想のジャンプは生まれやすいのかなとも思いますね。
この「発想のジャンプ」、という言葉が印象に残りました。
羽生は、一つの局面では、「ひらめき」⇒「読み」⇒「大局観」という流れで、次の一手を考えていると言います。
この「ひらめき」こそ、羽生の「発想のジャンプ」です。
羽生マジック。今まで、度々、不利な終盤戦で飛び出してきた妙手。
常に新しい戦法を取り入れ、その局面を打破するためなら悪手も指す。
たとえ負けても、新しい妙手を発見し喜ぶ姿。
この「発想のジャンプ」の裏には、将棋への飽くなき「好奇心」があります。
■ モチベーションの維持
モチベーションをいかに保つか、その秘訣を探りたいとも思い、本書を読んだのですが、その答えを見つけることはできませんでした。
しかし、あえてその答えを一言で表現するなら「将棋への好奇心」ではないかと思います。
いやぁ、そうですね。これだけ長くやっていても、将棋の可能性はまだまだあるということは実感しています。将棋の奥深さは、当初想像していたより、遥かに遥かに深かった。
勝ち負けを超えた、将棋への飽くなき好奇心。
勝つことに意味があるのか、指すことに意味があるのか、自信をもってあるとは言えない。沢山、沢山、対局してきた中で自然と湧き上がってきた感情です
突き詰めれば、将棋を指すことに意味は何もないのかもしれない。
そこには、勝負を超越したところで、将棋を楽しんでいる羽生の姿が見えた。
お互いが一生懸命やれば、将棋は必ず意外性のあるドラマが生まれる。どうせ観るなら、面白いドラマを観たいんです
自分も、もっともっと面白いドラマを観たい。
■ トリガーワード
コミュニケーション力/モチベーション/思考力/運/プレッシャー/勝負どころ/直感/信用/リスク/共鳴/師弟/マラソン/突き詰めない/スランプ/今が全て/無駄
- 題名 羽生善治 闘う頭脳
- 著者 羽生善治
- 発行年 2016年
- 出版社 文春文庫