【BOOK】『ことばの教育を問いなおす―国語・英語の現在と未来』を読みました/国語教育の要諦は、ことばの精度を高めること

本書は、鳥飼玖美子、刈谷夏子、刈谷剛彦の共著です。鳥飼玖美子は英語教育が専門、刈谷夏子は国語教育が専門、そして、刈谷剛彦は社会学が専門です。刈谷夏子は、国語教師大村はまの教え子ということもあり、大村はまの国語教育を縦軸にして、国語教育と英語教育の在り方について考えさせられる内容になっています。

◇ ことばの精度を高める

 

「このことばでいいか」と必ずちょっと考えてから使う。違和感があったら見逃さず、自分を覗きこむようにして探り、選びとり、滑らかさを望むよりは、引っかかりや摩擦をバネにして、自分の体重を乗せるように、体温を移すように、誠実に丁寧に使っていく。

 

ことばの精度を高めていくために必要なステップは、「表現→違和感→修正」。

この繰り返しが、ことばの精度を高めていきます。

 

以前、海外旅行中に湿疹ができたことがありました。

(後で、原因は、夕食に食べたサラダのドレッシングの可能性が高いということが分かったのですが…)

病院へ言っても、英語が話せないので、症状を伝えるのに苦労しました。

そんな時、どうするかというと、自分の知っている数少ない英単語の中から、伝えたい内容に近い言葉を探し出します。

あとは、身振り手振りで状況を表現することになります。

 

この、自分が伝えたいことを表す言葉を探す作業が、言葉の精度を決めます。

しかし、英単語の語彙力が決定的に不足しているこの状況では、ことばの精度はかなり低いということになります。

伝えたいことを、無理やり、知っていることばに当てはめているわけですから、ことばと自分の思考との乖離はとても大きい状態です。

 

では、日本語の場合はどうかと考えてみます。

自分の使っている言葉に、違和感を感じる場面は少ないと思います。

どちらかといえば、自分の気持ちは、十分に相手に伝わっているはずだと考えることが多いように感じます。

「自分の感覚に近い言葉を正確に使うことができているか。」

この問いは、とても大切だと感じました。

 

「表現→違和感→修正」

修正をするためには、語彙力を増やしていくことも課題になりそうです。

 

廃品回収の手伝いをした時に、一昔前の、児童向けの図書が廃棄されていたことがありました。

ぱらぱらと見て驚いたのは、その文字の小ささでした。内容も今の感覚からするとかなり高度です。

2、30年前の子供たちが読んでいたものと、現代の子供とたちが読んでいるものの違いに驚きました。

語彙力は、じりじりと低下していると思わざるをえない出来事でした。

 

 

◇ ことばを使う自分を見る自分という視点

 

 大村はまの教室でことばの力が育った最大の契機の一つは、ことばと向かい合う時に、今自分が考えていること、感じていることを表すのに、このことばが最適か、しっかりと伝わるか、表しきれないものがないか、余計なものまで表していないか、そんなふうに目を向ける習慣を身につけたことでした。

 

これは、メタ認知的意識と呼ばれる視点です。

言葉をつかう自分を客観的に見つめる視点をもつことは、日常生活でなかなか難しいと感じます。

ましてや、それを子供たちに教えるとなると、どのような手立てを使えばいいのか。

しかし、この視点をもてなければ、「表現→違和感→修正」をすることはできません。

このメタ認知が育ってくると、言葉を獲得する土台がしっかりとしてくるのでしょう。

また、このメタ認知は、抽象的な概念を自分の手元へ引き寄せるために必要です。

 

国語教育で、このメタ認識の視点をいかに育んでいくか。

自分が使っている言葉が適切かどうか、振り返る機会を増やしていくこと。

これは大きな課題です。

大村はまは、子供たちへことばの使い方を身をもって示すため、授業での話し合いの準備に膨大な時間を使っていたそうです。

まず、教師がどれだけの手本を見せることができるか。

そして、ことばの深さを味わわせることができるか。

抽象的な概念と具合的な概念の往還が、ことばの精度を高め、考える力を鍛えることにつながるとするならば、その橋渡しこそ教師の役割ではないでしょうか。

 

ことばの力を鍛えることは、考える力を育むことにつながる。

教育について考えさせられました。


本書には、英語教育についても興味深い内容がたくさん書かれています。

『星の王子様』や『スイミー』の日本語訳の適切さ、大学入試改革についても学ぶことができました。

英語教育のあり方について関心がある方も、ぜひ読んでみて下さい。

鳴門教育大学附属図書館に、大村はま文庫があるそうです。

行ってみたい。

◇ トリガーワード

国語力、本気のことば、旅の絵本、OS、大村はま、サピエンス全史、ホモ・デウス、日本語の乱れ、普段着、いきいき、出島、理論、実践、鮮度、ことばの力、言い換え、比喩、よく聞きなさい、こころ、スイミー、星の王子様、ヨソユキ、自立、自律、入試格差、力をつける、鍛える

 

  • 題名 ことばの教育を問いなおすー国語・英語の現在と未来
  • 著者 鳥飼玖美子、刈谷夏子、刈谷剛彦
  • 発行年 2019年
  • 出版社 ちくま新書

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