【BOOK】鴻上尚史『「空気」を読んでも従わない』を読みました/生き苦しさからラクになる方法/「世間」は、唯一の正解があるという幻を見せる

鴻上尚史は、舞台や著作で、日本における閉塞状況を、度々題材にしてきました。
なぜ「息苦しさ=生き苦しさ」を感じるのか、どうすればこの生き苦しさから抜け出すことができるのかを、中高生向けに解説したのが本書です。

もちろん、日々、生き苦しさを感じている大人にも最適です!

◇ 息苦しさ=生き苦しさ

学校生活における、生き苦しさ。

理不尽な校則、部活動の序列・・・そこにはっきりとした理由がある訳ではないのに、従わなければいけないという空気。

おかしいなと思いつつも、いつしか慣れてしまう。

1歳違うだけで、なぜ王様と家来のような関係になるのか?

日本人なら当たり前の感覚として持っている、この先輩と後輩の関係。

ヨーロッパやアメリカには、そのような概念はないそうです。

日本を一歩出ると、先輩・後輩という関係は、きわめて特殊なものであるということが分かります。

現代の子供たちが生き苦しさを感じることは、当たり前のことなのです。

以前、「KY」(空気を読めない)という言葉がはやったことは、象徴的です。

 

…「世間」には、「みんなと同じことをしないといけない。みんなと同じ格好をしないといけない。みんなと同じことを言わないといけない」というプレッシャーというか圧力があります。

これを、少し難しい言葉で「同調圧力」と言います。

 

日本には、この「空気を読め」という同調圧力が、様々な場所で、強く働いているのです。

◇ なぜ「従わない」ことが大切なのか

一つ目は、周りに合わせる生き方は、自分を殺して生きることになるからです。

これが、生き苦しさにつながる大きな原因だと感じました。

日常の些細なことでも、同調圧力は働いています。

周りに合わせることばかりしていると、自分を見失うことになります。

自分のやりたいことと、周りに合わせることのバランスを保てなくなるのです。

それが、いつしか苛立ちに変わり、より大きな怒りや絶望に変わるのは時間の問題でしょう。

また、世間に合わせる生き方が、将来、自分のやりたいことが分からないという若者を生み出しているのかもしれません。

常に周りの様子をうかがって行動すれば、必然的に正しい判断ができなくなるような気がします。

 

 

二つ目の理由は、生きるエネルギーの大半を、空気を読むことに使ってしまい、自分の人生を前に進めることが後回しになってしまうからです。

諍いを起こさないために、周りに気を遣うことが常態化すると、いつしか、空気を読むことが目的になってしまいます。

その結果、生きる気力が削がれ、何のために生きているのか分からないという状況が生まれることになります。

 

 

三つ目の理由は、度々、周りの考えに合わせたり、流されてしまうと、徐々に相手の影響力が強力になってくるからです。

自分の意思を殺し、周りに合わせることが度重なると、世間という幻影が、少しずつ強固な存在になっていきます。

最終的には、従わなければ生きていけないと思い詰めるまでになると思います。

私達は、苦しくなると、モノの見方が狭くなってきます。「もうこの解決方法しかない」とか、「これをやるしかない」「他にどうしようもない」と思い込みがちになります。

そういう時、他の文化を知っていれば、いろんな考え方、見方ができるのです。

それは、まさに「心を自由」にします。

 

しかし、学校と家庭が世界のすべてである子供たちにとって、自分たちの置かれた環境を俯瞰した視点から見ることは難しいことです。

では、どうすればいいのか?

◇ 「生き苦しさ」から抜け出すために

まずは、今、自分が向き合っているのが「世間」か「社会」か。

鴻上さんは、「世間」と「社会」を区別することが大切だと説明しています。

 

「世間」というのは、あなたと、現在または将来、関係のある人達のことです。

「社会」というのは、あなたと、現在または将来、なんの関係もない人達のことです。

 

 

日本人は、基本的に「世間」に生きています。しかし、この「世間」は中途半端に壊れ、現代にまで残っています。

明治までは、まだ村社会が残っていましたが、産業の発展とともに、「世間」が中途半端に壊れたまま、現代に引き継がれているのです。

 

現在の「世間」は、半分壊れている。

この言葉を聞いただけでも、ほっとする人がいるのではないでしょうか。

 

「世間に顔向けできない。」といった時、「世間」とはいったい何なのか?

まさに、世間とは、実態のないお化けのような存在です。

まずは、敵の正体を知ること。それだけでも、ずいぶんと生きやすくなるというのが鴻上さんの提案です。

 

次に、なるべく早く、海外旅行に行くこと。

いろんな文化を知ることで、今、自分が生きている世界が唯一の正解ではないと知ることができます。

日本の当たり前が、当たり前ではない世界を経験することで、「世間」と自分との間にスペースを作ることができます。

余裕が生まれるのです。

 

海外旅行が無理なら、学校以外に、所属するグループを作ることも有効です。

絵画教室や、ダンス教室、スポーツクラブでもいいかもしれません。

学校とは離れた、グループに属するだけでも、生き苦しさを避けることができます。

 

そして、生き苦しさを感じた時、「それって本当なの? ホントにホントに本当なの?」と問いかけること。

 

この問いは、「世間」という幻を見破る鍵になります。

声を上げることで、はっと我に返る人もいるでしょう。

「たしかにそうだよね。」と共感する仲間が、現れるかもしれません。

 

「世間」は幻と知ったうえで、うまくやり過ごす。

自分の置かれている状況を客観的にみて、なおかつ、どうすればよいかを考える。

行動の主体を、「世間」から、自分に取り戻す。

 

だって自分の人生を決めるのは、自分であって、「他の人が評価するかどうか」ではないからです。

 

まさに、タイトルの『「空気」を読んでも従わない。』ですね。

この本を読んで、少しでも、楽になれる学生が増えればいいなと思います。

 

「今、あなたたちが置かれている環境は、一時的かつ、極めて特殊なものであり、そのルールに従うか、従わないかは、自分で決めることができるんだよ。世界は広い!」という鴻上さんのエールが聞こえてきました。

◇ トリガーワード

1歳年上でなぜ偉いのか?/世間と社会/根強く残っている世間/世間は中途半端に壊れている/外国には世間はない/たったひとつの正解ではない/敵の正体を知る/生き苦しさ=世間/空気を読め/明確な司会者はいない/世間のルール/人間関係の基本=集団生活/裸の王様作戦/空気は変えられる/同調圧力/自尊感情を高める/一度、受け入れる/たまに会う人達との関係も作る/自分の人生を決めるのは自分/あなたはかけがえのないあなた/人に迷惑をかけないようにしよう

  • 題名 「空気」を読んでも従わない
  • 著者 鴻上尚史
  • 発行年 2019年
  • 出版社 岩波ジュニア新書

LIFE IS LIVE