【BOOK】『「生存競争」教育への反抗』を読みました/教育の本質は、世界に出会わせること

本書が提案したいのは、わたしたちの社会の教育を「ゆるめる」ことだ。

 

まがりなりにも教育学を専門とする者として、ここは言わせてほしい。現代日本の問題を、なんでもかんでも教育で解決しようというのはいただけない。

 

 

学校教育は、国語、社会、算数、理科といった教科学習の他に、プログラミング教育、食育、税教育、環境教育など、様々な○○教育が詰め込まれています。

筆者の、社会の教育を「ゆるめる」という考えに共感しました。

◆ 世界に出会わせるとは?

本書を通して、新たに学び取った視点が三つあります。

一つ目は「教科を介して世界に出会わせる」という視点、二つ目は「学習したいという欲望に火をつける」という視点、三つ目は「文化を享受する土台を作る」という視点です。

◆ 教科を介して世界に出会わせるとは?

学校教育と聞くと思い浮かべるのは、教科書を通して国語・社会・算数・理科等の教科を教室で学習する姿だと思います。本書は、これまでの学校教育観を解体し、「世界に出会わせる」という視点で再構築する道筋を提示しています。

国語の授業を通して、豊かな日本語の世界に出会わせる。
算数・数学の授業を通して、抽象的な数や形の世界に出会わせる。理科の授業を通して、自然や科学の世界に出会わせる。
社会の授業を通して、子どもたちを人間的・社会的営みに出会わせる。

 

この言葉に、学校教育という言葉のもつ世界が、ぐわっと広がった気がしました。教科書という枠組みを飛び越えていく可能性を感じました。

 

学校では、生きるためには必要のなかった世界に強制的に出会わされる。そしてそのことで、この社会で、ではなく、この世界と向き合ってともに在る、ということが可能になる。

 

学校教育において、児童の「この学習は何の役に立つのです?」という問いに、真剣に答えようとすればするほど、学習意欲の低下を招くというジレンマに陥ります。

なぜなら、その答えから、子供たちは学習意欲を高めるのではなく、ならばそれ以外の知識は必要ないという消極的な学びへ向かっていくからです。

社会が、教師が、子供たちによりよい教育を提供しようとするおかげで、子供たちは学びから逃走するという状況を招いているのです。

学校教育において、子供たちの学びたいという欲望に火を着けるつけることができれば、それだけで教育の役割を十分に果たしたと言えるのではないでしょうか。

こどもた世界に出会わせることを通して、その手がかりがつかめるのではないかと感じました。

また、文化を享受する消費者という立場を育てていくという視点も新鮮に感じました。

現在の学校教育では、生産者を育てていくという視点が重要視されています。学校教育では、よりよい商品やサービスを提供する人材を育成したいという思惑が透けて見えてきます。

しかし、商品やサービスを受け取る消費者がいなければ、経済を持続させていくことはできません。また、芸術、音楽といった分野でも、必要なのはクリエイターだけでなく、その良さを享受することができる消費者です。

世界と出会わせることにより、より賢く、様々な文化を楽しむことができる消費者を育てることができるはずです。

世界と出会わせることは、考えること・教えることの再発見だと感じました。

社会への「適応」だけでは経験することのない世界を経験する。教科書から飛び出ていくことに、もっと前のめりになっていいのではないでしょうか。

○○教育が詰め込まれた学校教育をスリム化して生きるためには必要のない世界に強制的に出会わせていく場を学校で経験していってほしいと思います。

現在の教育の在り方をどのように改善していけばよいのか、その道標となるような内容の本でした。

裏表紙

◇ トリガーワード

教育依存症候群/社会移動/民主的平等/コンピテンシー能力/役に立つ能力/資質・能力/現代版子ども中心主義/人間の幸福/ゆとりの詰め込み/スコレー/最高の人生の活動/何が役に立つか判断できない/タスク・フォーカス/今ここでできること、すべきことに専心する/世界に出会わせる/見方・考え方/主体である/教えることの再発見/フリーズさせる/イノベーション

 

  • 題名 「生存競争」教育への反抗
  • 著者 神代健彦
  • 発行年 2020年
  • 出版社 集英社新書

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