♪『パプリカ』は、勤務校でもたいへんお世話になりました。その振り付けをしたのが、著者の辻本知彦氏。どんな人なんだろうと思い、本書を購入しました。Foorin(フーリン)のメンバーに振り付けを伝える場面には、教室でも応用できる技術がつまっていました。
辻本知彦氏が、本格的にダンスを始めたのは18歳。
この業界では、かなり遅いスタート。
高校を卒業後、大阪スクールオブミュージック専門学校に入学。
そこで出会ったダンサー、渡辺寿悦氏に「一流になれ。一流になったら仕事はある。」言われ、どうすれば、3歳からダンスのレッスンを始めた同期と渡り合えるのか考えた。
卒業後、1年間、ディズニーランドで働き、その後、バレエとアクロバットの鍛錬に取り組む。
様々なオーディションを受け、ミュージカルの舞台を踏み、アメリカでのダンスレッスンも経験。
金森穣氏が立ち上げたコンテンポラリーダンスチーム「Noisem(ノイズム)」に参加、シルクドソレイユのオーディションにも合格、そして、様々なアーティストの振り付けを担当し、実績を積んでいった。
◆ 自己鍛錬
辻本知彦氏が、本格的にダンスを始めたのが18歳。
3歳からダンスのレッスンを始めた同期と渡り合うためには、何をすればいいのか?
まず最初に取り組んだのが、自分自身を鍛えること。
- ストレッチ・筋トレ
- ビジュアル(身だしなみ、動き)
- 食事
自分自身をストイックに鍛える姿は、プロフェショナル。
どうすれば効率よく、自己鍛錬できるかを追究していった。
そして、様々なスタイルの踊りを探究し、自身のダンスや振り付けに、貪欲に取り入れていく。
その経験があるからこそ、誰が相手でも、どんな現場でも振り付けができる。
とあるCMでの撮影現場。
高校生に振り付けを教える場面で、
”僕はサポートするだけで管理しないよ”というスタンスで臨み、彼女たち自身のなかにある自己鍛錬する力を引き出すよう心がけた。
p.183
「自己鍛錬を引き出す」という言葉は、辻本知彦氏らしい。
高校生相手でも、相手の可能性を尊重し、振り付けをするという、辻本知彦氏の哲学が伝わってきた場面。
◆ 臨機応変
辻本知彦氏が、振り付けを伝える時に大切にしていることは、「表現の鮮度」。
現場での、コミュニケーションの積み重ねを、振り付けにどうやって生かしていくかを常に考え、現場に立っている。
『パプリカ』の振り付けの場面では、フリーダンスや時間の使い方、遊びと練習のバランスなど、細かなところまで意識している。
あらかじめ決められた振り付けを教えるだけでは、あのダンスは生まれませんでした。
子どもの意思を尊重し、創造性を引き出すことで、子供たちに愛される、楽しい振り付けが完成した。
この、即興性と、緻密な計画性には、教室でも生かせるアイデアがたくさん詰まっていました。
共同で振り付けをした菅原小春氏、とのやり取りも興味深いエピソードがいっぱいでした。
ヒップホップの定石を取り入れようとする菅原小春氏と、より自由で創造的なものを求める辻本知彦氏とのぶつかり合い。
辻本知彦氏は、ただ意見を主張するだけではなく、なぜこの振りが必要なのか、どうすれば子供たちの魅力を引き出すことができるかを提案しながら、双方が歩み寄り、より創造的な振り付けが生まれました。
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◆ 誠心誠意
振り付けをする時に一番大事にしていることは、個性を否定しないこと。
内発的に生まれた動きを大切にし、どうやってダンスに昇華させるのか。
人の魅力を引き出すポイントとして、辻本氏は、
- 相手をよく見ること
- 正直であること
- 信頼を築くこと
の3つを上げている。
アーティストと、誠心誠意向き合うことで信頼関係を築き、その人にしか出せない魅力を見つけ、振り付けていく。
教える立場に立つ人、表現に関心がある人、もちろん教師にもおすすめの本です。
◆ トリガーワード
道具いらず/18歳/ストレッチしながら筋トレ/自己鍛錬/コンテンポラリーダンスへの道/舞踏の世界/山崎広太/シルクドソレイユ/その人を好きになる/パプリカ/夕方の寂しさ/常に新鮮な気持ちで/個性を否定しない/内発的に生まれた動き/ダンスを通してコミュニケーション/臨機応変に変える/仕事を断る/汗は君のために流れる/自分の個性の発見
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- 題名 生きてりゃ踊るだろ
- 著者 辻本知彦
- 発行年 2022年
- 出版社 文藝春秋