【BOOK】「異彩」とは、福祉とアートと社会をつなぐ命の表現/『異彩を、放て。』/松田文登・松田崇弥

「ヘラルボニー」は、知的障害をもつ人たちのアート作品を、ネクタイや傘などのデザインに使用し、商品化している会社です。ところで、この「ヘラルボニー」とは、何語で、どんな意味があるかご存じですか?

◆ 障害者と社会を、アートでつなぐ

「ヘラルボニー」は、知的障害のある作家が描いた原画をもとにした、アパレル製品を製造している会社です。

その設立者は、自閉症の兄をもつ双子の兄弟≪松田文登さんと松田崇弥さん≫です。
彼らの起業の過程を描いたのが本書です。

「ヘラルボニー」誕生のきっかけは、

① 兄が自閉症児だったこと
② るんびにい美術館(岩手県)での出会い

でした。

自閉症の兄をもっていたという生い立ちが、障害者と社会の間にある見えない壁を取り払い、接点を生み出したいという願いにつながりました。

るんびにい美術館は、知的障害をもつ人たちの創作活動を支援している場所です。岩手県花巻市にあります。

松田崇弥さんは、ここで出会った作品に衝撃を受けました。
そして、もっとと多くの人にこれらの作品を届けたいという思いをもち、起業しました。

異彩を放て表紙2

障害のある人のつくるアート作品は、「アウトサイダー・アート」や「アール・ブリュット」と呼ばれています。

作家本人は止むに止まれぬ衝動で絵を描いているため、作品として展示されたり、製品化されたりすることに関心がないことも多いようです。

「ヘラルボニー」では、作家と作品に、真摯に向き合い、作家と対話しながら製品化しています。

るんびにい美術館のHPは、―▷ こちら

◆ ふつうって何?

「ふつうじゃない、かわいそう、バカにされるとういう状況を、どうすれば変えることができるのか。」

「そもそも障害者という言葉が不自然ではないか。」

本書は、障害者も同じ人間であり、「当たり前とは何か?」、「普通とは何か?」と繰り返し、問い掛けます。

障害者にまつわる問題に真正面に向かい合い、取り組んでいるのが「ヘラルボニー」です。

命の表現は、「健常者」でも、「障害者」でも変わらない。

るんびにい美術館では、そういったカテゴライズからも距離を置き、「障害者」と「健常者」、人種や性別といったあらゆる区別から解放された名付けようのない命の表現ととらえ、知的障害のある人たちの作品を展示していた。障害のある人と健常者を区別せず、ありのままにその作品を提示するー。その世界観は、僕らも強い共感を抱くものだった。

p.56
異彩を放て表紙3

◆ 初めての商品は、シルクのネクタイ

初めての商品化はネクタイでした。

なんと、プリント地ではなく、オリジナルのテキスタイルとしてシルク地に織り込む方法で製品化しました。

このハードルはとても高かったのですが、ヘラルボニーの志に共感した企業が現れ、製品化にこぎつけました。

作家の「命の表現」を尊重したいという思いが伝わってきます。

作家である障害者の方が、納得し、喜んでもらえるような製品を作りたい。

障害者やアート作品に対する丁寧で真摯な姿勢は、すごいと思いました。

また、岩手から、スタートアップした企業が、着々と成長していく姿にも心を動かされました。

「ヘラルボニー」のHPは、―▷ こちら

異彩を放て表紙4

◆ おわりに

ヘラルボニーとは、自閉症の兄が、7歳の頃、自由帳に書き付けた言葉で、この言葉自体には意味はありません。

そんな言葉を社名にしたのは、

「一見意味がないと思われるものを世の中に新しい価値として創出したい」

という思いが込められているそうです。

 

もっともっと「異彩」を放っていい。
自分自身も。

読者である私も勇気づけられる本でした。

 

  • 題名 異彩を、放て。
  • 著者 松田文登・松田崇弥
  • 発行年 2022年
  • 出版社 新潮社