高校生の時、日本史が嫌いになり、それ以来、歴史物は敬遠していたけれど、いっきに読んでしまいました。
たいへんおもしろかったです!
門井慶喜『家康、江戸を建てる』。
秀吉に命じられ関東に入国した家康が、荒れ地&湿地だった関東をどのように整備し、江戸の街をつくったのか?
知らないことばかりでした。
◇ 流れを変える
まず、家康が取り組んだのは、湿地帯だった土地を整備すること。
命じられたのは、伊奈忠治。
解決方法は、江戸湊に流れ込んでいる利根川の河口を、鹿島灘へ移すこと。
いくら土地を改良したいからって、川を引っ越しさせるなんて!
伊奈家三代に渡る大事業。
現在の利根川の位置は、江戸時代と全く違っていたとは、驚き!
キーワードは、「臆病」。
常陸川の青い水面を見る。やはり赤はひろがっていない。どうみても合流に成功したとは見えなかったが、或る瞬間、いっきに大量の白いあわが出たかと思うと、あたかも一万人が水中で刺殺されたかのように赤いものが盛大にわきあがった。
◇ 金貨を延べる
貨幣を制する者が、国を治める。
金銀の重さを測る秤量貨幣から、枚数を数えるだけで正確に額を共有できる計数貨幣へ。
金貨づくりを担った、橋本庄三郎の波乱万丈な生涯。
現在では、当たり前に使っている「お金」。
時代劇でしか見たことのない小判だったけど、この物語を読んで、小判に込められた意味を知ることができました。
通貨が統一されるまでの変遷は、まさに貨幣戦争。
この先に、今の「お金」がある。
この本を読んで、お金に対する見方が変わったよ。
「……殿様」
ふたたび庄三郎がつぶやいたとき、家康の目がとつぜん変わった。
黒目がきゅっと引き締まり、輪郭がさだまった。
視線が光量を増し、火のようになって、
「京へ行け」
「は?」
「何をしておる。はよう行くのじゃ庄三郎。京におぬしの旗を立てよ」
◇ 飲み水を引く
江戸の飲み水をどうやって確保するか。
川はいらないが、水は欲しい!
この事業に取り組んだのは、大久保藤五郎、内田六次郎、そして、春日与右衛門。
まずは、水源探しから。そして、水をいかにして市中に届けるか。
水道管を地下に通す!
地下に水の通り道を作るなんてすごい技術だと思う。
しかも、材料は、松や檜といった木の板。
現在、東京に残っている地名に、「水」に関するものが多い理由もよくわかった。
―完璧じゃ。
藤五郎は、そう思った。
春日与右衛門というこの謙遜な、或る意味つかみどころのない若者にすっかり仕事をうばわれてしまったことは悔しくなくもないけれど、それよりも新時代のインフラを一から体感するよろこびというか、新導入のアトラクションを一番に経験するよろこびというか。
―長生きは、するものじゃ。
◇ 石垣を積む
江戸城の石垣のために、山から石を切り出す事業を命じられたのは、吾平と喜三太。
石の節理を読む能力に長けた、見えすきの吾平。
そして、石を積む能力に長けた、見えすきの喜三太。
個人的には、このお話が一番好き。
石の中が見えるって何? と思ってからの、話の展開に引き込まれた。
結末には、じ~んときた。
胸が熱くなった。
伊豆の山から石を切り出し、江戸へ運ぶなんて、たいへんすぎる。
こんにちの単位でおそらく三十トンはあろうと思われる巨大な石が、わずか四つの矢穴と一刻(約二時間)ばかりの作業時間でやすやすと切り落とされるというのは、当時としては瞬間切断にも等しいのである。
◇ 天守を起こす
家康が関東に移り、江戸城の大増築に取り組む。
天守は要らないと考える、秀忠。
白壁の天守を造ろうと考えた、家康。
当時、安土、大坂といった大都市に築かれた城郭の天守は、黒壁が通例だった。
中井正清は、大量の石灰を手に入れるため奔走する。
たしかに、城の役割を考えたら、白色は目立つ。
黒色の方が、防御の面でも有利に働く。
なるほど、城の壁の色にも意味があるのか!
「これからは、おぬしの時代じゃ。」
家康はそう言うと、秀忠の横顔へ、やわらかな口調で、
「わしの意を、よう見とおした」
「父上」
秀忠は、試験に合格した生徒のように喜色をぱっとあらわしたが、
「半分じゃな」
家康は、くるりと秀忠に背を向けた。
この本を読み、江戸という街の成り立ちを学ぶことができました。
おもしろくて、一気に読んでしまった。
そして、読了したのは、お盆。8月15日。
これまでの日本を支えてくれた人々、そして、自分の祖先に思いを馳せる。
この本と古地図をもって、東京を歩いてみたい。
- 題名 家康、江戸を建てる
- 著者 門井 慶喜
- 発行年 2016年
- 出版社 祥伝社
LIFE IS IMPROVEMENT